―格率―
人はただ自分もまぬがれられないと考えている他人の不幸だけをあわれむ。
「不幸を知っていればこそ不幸なかたをお助けしたいと思うのです」
この詩句のように美しく、意味ふかく、心にふれる、真実なことばを私は知らない。
なぜ王たちは臣下にたいして無慈悲なのか。けっしてふつうの人間になるつもりはないからだ。なぜ金持ちは貧乏人にたいしてあんなに苛酷なのか。貧乏人になる心配はないからだ。なぜ貴族は民衆をあんなに軽蔑するのか。けっして平民になることはないからだ。なぜトルコ人は一般にわたしたちよりも情けぶかく、快く人をもてなすのか。かれらはまったく恣意的な統治のもとにあるために、個人の地位や財産はいつも一時的なもの、変わりやすいものなので、卑しい身分や貧困を自分に無縁の状態とは考えないからだ。以下略
(J.J.ルソー『エミール』 今野一雄訳 岩波文庫) |