MDの録音はノルマとして作ってもいいものは生まれない。次に何入れようか、どれがかっこよく続くだろうかと考えながら録音しているのが楽しい。イメージだけでは思ったとおりにいっていない。曲の全体のイメージで選曲していては前後がうまく続かない。うまく続いた感があるのはボロディンのイゴール帝の次にグレッキの交響曲第二番第二楽章とか。クリティカルはこれくらいだけどとりあえずは感覚が崩れなければよし。チャイコフスキーの悲愴の第一楽章の次にローマの噴水、シンディングやオルセン、ハルヴォルセン、グリーグの小品、そこで武満の夢想、最後はホルストのサマーセットラプソディ。これで74分。こういうことをしているとバッハの王の主題によるソナタはLargo-Allegro-Andante-Allegroとなっていて四部楽章の構成の奥深さがわかってくる。
車ではクセナキスがなぜか楽しめる。クセナキスがフェ−ドしてカーナビのアナウンスが流れるとかっこいい。場面に応じて選曲する。食傷気味の曲は入れたくないが知らない曲ばかりでも疲れる。だから今までにじっくり堪能してなかった楽章を入れる。チャイコフスキーの第五番の第二楽章とか。感情過多のロマン派や現代音楽ばかりでは疲れるのでジョスカンデプレやオケゲムのミサの一部を入れて癒したり。普段は聴かない美しく青きドナウとか。また何も計算せず霊感や直観に任せて選曲しているのも楽しい。録音している最中に楽しめる。録音しているときほど音楽をじっくりと堪能できていることがない。没我しやすい。自意識がなくなり音楽に積極的に委ねられた状態になるとほとんどどんな曲でも楽しめる。三年前にはつまらなかった曲のよさがわかったり。特に調和のとれた曲のよさが。ほどよい距離感で目立たないものが崇高なのかもしれない。単調でもメロディは複雑で、自然を愛でるかのような。人間的な訴えは正義であってもほとんど美しくない。感動をかき立てるかのような天才と言わしめるかのような。かき立てられる。鳥や虫の声、水の音、月の光とか。メンデルスゾーンがあんなに美しかった。バルトークのピアノ協奏曲第三番があんなにいい曲だった。 |